キヤノン ぺリックス - まばたきしない一眼レフ
PELLIX
PELLIXはキヤノンが1965年に発売した機械式一眼レフカメラです。
ペンタ部の文字が「Canon」でないことを除けばほかのFX兄弟のカメラにそっくりですが、中身はまさに異質で、唯一無二の魅力的なカメラです。
本機最大の特徴は、キヤノンのお家芸ともいえるペリクルミラーでしょう。
ペリクル(pellicle)は薄膜の意味で、おそらく本機の名前PELLIXは、pellicleとflexの造語だろうと思います。
ペリクルミラーがどんなものかというと、所謂ハーフミラーです。
PELLIXでは通常のミラーの代わりにペリクルミラーが固定されていて、入射光の7割がフィルム側に透過し、残り3割が反射してファインダーに送られます。
通常の一眼レフとは違いミラーを跳ね上げる必要がないため、シャッターが切れる瞬間のブラックアウトやミラーショックが生じないことが利点でしょうか。
しかしこの形式がマイナーであることからも分かるとおり、欠点もあります。
まず、ファインダーが暗いです。全光の3割しか見えないからです。
また、フィルム面も暗いです。全光の7割しかフィルムに届かないからです。
利点と欠点をどう捉えるかは人によると思いますが、一般的なユーザーが最初に手に取るようなカメラというよりは、特殊な用途を想定したカメラだと思います。
どんな人が、どんな用途で使っていたんでしょう?
実際に使っていた人の話も聞いてみたいです。
余談ですが、タイトルの「まばたきしない一眼レフ」は、発売時のキャッチコピーらしいです。
さすがキヤノン、いいコピー考えるな!と、感心してしまったので採用しました。
ここからは弟分のFTQLとの比較です。
PELLIXと、FTQLと。
1960~70年代にキヤノンから発売された一眼レフには、ボディ形状がFXとそっくりなものがいくつもあります。
発売順に並べると、FX、FP、PELLIX、FTQL、PELLIX QL、FTb、FTb-N、TLbです。
こいつらのことを私は勝手にFX兄弟と呼んでいますが、このうちFTQLは中期に位置する標準的な製品で、PELLIXの翌年1966年に発売されました。
この二機種、共通点を挙げればきりがないほど似ていますが、ボディや巻き上げレバー、セルフタイマー、シャッターロック、巻き戻しクランクなど、多くの部分でパーツの共通化を図っていることが見て取れます。後継のPELLIX QLはさらに似ているんでしょうか?欲しくなってきました。
違いもいくつかありますが、ミラー以外での最大の違いはシャッター幕の材質でしょう。FTQLを含むほかの兄弟が布製のシャッター幕を採用しているのに対し、PELLIXではチタン合金製のシャッター幕が採用されています。
これはシャッター焼け防止のためではないかと思います。
実際、キヤノンのレンジファインダーカメラの一部は、シャッター焼け防止のために金属製シャッター幕を採用しています。下の画像はキヤノン7のシャッター幕で、ステンレス製です。
この違いによるところが大きいのか、巻き上げのフィーリングは全く異なります。
PELLIXのほうが重厚感があり、「良いものを触っている」感があります。
シャッター音も全く違います。断然PELLIXのほうが好きだな~
ファインダーにシャッターがついており、閉じることができるのもPELLIXの特徴です。
本機の構造上、普通の一眼レフ以上にファインダーからの入射光には気を遣わねばなりません。
最後に
F-1が登場するまでのキヤノンの一眼レフは、スターが不在でどれもジャンク箱の常連。
プリズム腐食の持病持ちが多い印象です。
このPELLIXもハードオフの青箱から救出したもので、本体800円、純正ケースが100円という価格設定でした。
プリズム腐食がありますが、露出計は元気に動いています。
オークションでもかなりお安く出ているので、ぜひぜひ手に入れてみてください。
作りは良いですし、所有欲を満たしてくれます。
純正レンズが安いのも最高!
プリズムの蒸着面の修復については、いつかやってみたいなぁ。